いかにして眠るか

眠ることは時として難しい。あれこれと考えてしまったり、環境が悪かったりする時は特にそうだ。わたしもこれまでに眠れない夜を過ごした事は幾度となくある。そのたびに、快眠を得る方法を本などで調べ、実際に試してきた。 この記事は、眠りが浅い気がする、睡眠の質を高めたい、あるいは今まさに眠れない夜を過ごしている、そんな人のために書いた。 参考文献などを元に快眠を得る方法をまとめてあるが、新たな事実を知った時には適宜更新する。

睡眠の仕組みについて

はじめに睡眠が生じる仕組みについて簡単に説明する。

体内時計(サーカディアンリズム)

人間を含むほとんどの生物は体内時計、より専門的にはサーカディアンリズムと呼ばれるリズムにしたがって睡眠などの生理現象が生じる。 これはおよそ24時間周期のリズムであり、太陽の明暗の周期と若干異なる。このリズムが我々の遺伝子に組み込まれているため、自然な生活をしていたら周期的に眠気がくるし、その時に眠るべきだ。我々人間のサーカディアンリズムで眠気が増してくるのが22:00ごろで、眠気のピークは02:00-04:00あたりである。ただしこれは大人のリズムであり、子供のリズムは大きく異なる。例えば16才ごろでは24:00ごろに眠気が訪れてくるため、思春期には夜更かしをする方が自然である。反対に高齢になると眠くなる時間が早まってくる。

メラトニン

メラトニンは吸血鬼ホルモンとも呼ばれ、夜が来たことを脳や身体に伝える役割がある。 メラトニンは光と密接な関係を持っていて、夜間にかけて分泌が増え、光を浴びると抑制される。 またこのホルモンはセロトニンとも重要な関係を持っていて、セロトニンが分解されることでメラトニンが得られる。 またメラトニンは、寒い環境の方が分泌されやすい。

体温と眠気

体温と眠気には密接な関連がある。事実、眠っている時には体温が大きく下がっている。 身体は眠りに入る時、皮膚から熱を逃し、身体内部の体温である深部体温を下げる。 この皮膚の温度が上がり、深部体温が下がってきたタイミングで眠気が生じてくる。 赤ちゃんの手が暖かいのは眠ろうとしているサインである。

副交感神経と交感神経

内臓の制御を司る自立神経と呼ばれる神経は、交感神経と副交感神経に分かれている。 これら二つの神経はたえず働いていて、バランスを取り合って動作している。 交感神経は活動時に、副交感神経は休息時に優位になる。 スムーズに眠りにつくには、副交感神経が優位になり、リラックスしている必要がある。 自律神経は直接的に操作することができないが、関節的に働きかけることができる。

睡眠圧とアデノシン

睡眠圧とは、眠りにつこうとする圧力のことで、アデノシンと呼ばれる脳内物質が増えることで上昇する。 この物質は起きている間は増え続け、眠ることによって減少する。そのため日中に多く眠ることは避けたい。 徹夜明け、体内時計では起きているはずの時間に眠たくなるのはアデノシンが蓄積されているからである。

睡眠の効果

睡眠の効果は、身体の回復、記憶の整理、脳の掃除、恒常性の維持など様々あるが、ここでは詳しく述べない。 睡眠の効果を十分に発揮するのに必要なのは、その長さよりもむしろ眠りの質(深さ)である。

睡眠環境を整える

眠るための環境を整えることは、持続的かつ具体的なため取り入れやすい。

暗くする

自然界はエジソンが電球を発明する19世紀まで、夜になれば暗くなるものだった。つまり、人間は闇の中で眠るようにできている。 眠る時には可能な限りの暗闇で寝ることで質の高い睡眠がとれる。わずかな光でも睡眠に影響を与えることがわかっている。

音を防ぐ

静かな環境が睡眠に重要なことは言わずもがなである。目覚まし時計で叩き起こされるのは、音が生存に関わる危険信号を意味するからだ。 睡眠の質にも影響するため、鉄筋コンなど静かな部屋を選びたい。またエアコンが止まるなど、常に聞こえている音が突然消えた時にも脳は注意を払うため、目覚めの原因になる。

最適な温度、湿度にする

あまり寒いと眠りが妨げられるし、暖かくしすぎても汗をかいて不快になってしまう上にメラトニンの分泌を抑える。 そのため、布団を含めて最適な温度にすることが快眠には重要である。 理想的な寝室の温度は18.3°とされる。

ベッドを広くする

ベッドのサイズは大きい方が睡眠の質を高めることが実証されている。 人は眠っている時に寝返りをうって圧力を分散させている。寝相が悪いのは多くの場合良く眠れている証拠である。 自然な寝返りをうてるように、大きなベットの方が望ましい。枕も寝返りしやすいものにしたい。

通気性のある枕にする

熱がこもる枕を使うと、頭から熱を逃がすことができないので、深部体温がうまく下がっていかない。 通気性のある枕(そば殻など)にすることで、うまく熱を逃がせるようにできる。

靴下をはかない

上記と同様の理由で、靴下があると足先から熱を外に逃がすことができないため、はかない方がいい。 身体から熱を逃がす主な部位は手足と頭とされる。

日中をいかに過ごすか

夜に深く心地よい睡眠を得られるかは日中をいかに過ごすかに大いに左右される。

朝日を浴びる

朝起きた時に朝日を浴びることでずれている体内時計を正常に戻すことできる。 日光を浴びることから一日を始めたい。

太陽光を浴びる

昼の太陽光を浴びることでセロトニンの分泌が促される。夜にはそれがメラトニンとなり、入眠を助ける。 紫外線を浴びることのプラスの副作用として、皮膚からビタミンDが生成されるため様々な恩恵がある。 窓を隔てた光だと有益な波長の光を防いでしまうため、昼には外に出るようにしたい。

活動する

どうしようもなく疲れて泥のように眠った時は、心地のよい眠りが得られるものだ。 日中に、運動、遊び、仕事、なんでもいいので活動することで、いい疲れが自然な眠気を誘発してくれる。

眠りに役立つ食事

セロトニンは食事によって得ることもできる。ビーフ、ラム、チキン、サケ、アーモンド、カシューナッツなどに多く含まれるL-トリプトファンを摂取することでセロトニンが生成される。

午後2時以降にカフェインを摂取しない

カフェインは、睡眠圧を高めるアデノシンの働きを弱めることによって眠気を遠ざける。 カフェインの半分が身体から出て行く時間は5-7時間とされ、完全に消えるまではさらに時間がかかる。午後2時以降のカフェインの摂取は控えたい。 カフェインはコーヒー、コーラ、抹茶、ココア、紅茶、ほうじ茶、烏龍茶、緑茶、ダークチョコレートなどに含まれる。 アイスクリームや、一部の錠剤にも含まれていることもある。

アルコールは最小限に

アルコールをたくさん飲むと入眠しやすいかもしれないが、それは普通の眠りではなく、麻酔をかけられた状態に近い。そのため、睡眠の効果はうまく得られない。また、アルコールは睡眠を断片的にすると共に、記憶の形成を阻む。 現在市販されている睡眠導入剤も、自然な眠りとは違うため睡眠の効果は十分に得られない。

寝る直前の行動

眠る直前(約2時間前)に実施すると入眠を助ける、入眠を妨げる行動について述べる。

明かりを暗くする

明るい明かりはメラトニンの分泌を抑えてしまう上、交感神経を優位にしてしまう。寝室は最小限の明るさにしておきたい。 光の色に関して、赤など暖色系の方がよい。青色LEDは白熱灯の2倍もメラトニン生成を抑えてしまう。 ロウソクなどの自然な光にはリラックス効果も期待できる。ただし少量の光でもメラトニンの分泌に影響を与える。

頭を使わない

眠る前に集中を要することをしてしまうと作業興奮が引き起こされ、結果として交感神経を優位にしてしまう。 寝る2時間前以降は頭を使わない、リラックスできることをしたい。

激しい運動をしない

上記同様激しい2時間前以降の運動は交感神経を優位にすると共に、深部体温がなかなか下がらなくなってしまうため、避けた方がいい。

寝る前に多く食べない

寝る前に食べ過ぎていても、お腹が空いていても、睡眠の質を下げてしまう。 身体はあまりお腹が空いていると、飢餓状態と認識して食物を探したなって眠りが浅くなる。 反対に食べ過ぎは消化不良が熟睡を妨げる。 そのため寝る前は、適度にお腹に食物が入っているのがちょうどいい。

眠る90分前にお風呂に入る

風呂に入って深部体温をあげるのは、矛盾するようにも思えるが、実は深部体温が一時的に上昇すると、深部体温の下降幅が大きくなる傾向にある。また皮膚を温めることで熱放散を促すことができる。その深部体温が下がり始めるタイミングが90分後なので、その時にベッドに入っていると都合がよい。入浴の温度、時間については、42度以上だと交感神経を刺激してしまうことがあるため、40度で10~15分程度がベストとされる。

ハーブティーを飲む

カモミールなどの多くのハーブティーには神経系を安らげる作用がある。就寝時に飲むことで副交感神経が優位になりやすくなる。 もちろんハーブティーにはカフェインは含まれていない。また、ハチミツを大さじ一杯入れることで睡眠時の脳のいいエネルギー源になる。

呼吸法を使う

寝る前に深呼吸をすることでリラックスできる。ここではボックス呼吸法と呼ばれるシンプルかつ強力な呼吸法を紹介する。 目を閉じて椅子に腰掛けるか仰向けになって行う。やり方は簡単で、4秒ゆっくりと鼻から息を吸う、4秒息を止める、4秒かけて息を口から吐き切る、4秒息を止める、以上を何度か繰り返すだけだ。

悩みを遠ざける

悩みや精神的負荷があると布団の中であれこれ考えてしまい、入眠を妨げてしまう。

思考法

人間社会に悩みや心配事はつきものだが、考え方次第では頭から追いやることができる。 ここではDale Carnegie著「How to stop worrying & start living」より、悩みを解決する魔術的公式を紹介する。

  1. 起こりうる最悪の事態は何かを考える
  2. やむをえない場合には、最悪の事態を受け入れる覚悟をする
  3. それから落ち着いて、事態を好転させる具体的な行動を考える

多くの場合、この最悪の事態は死ではない。最悪の事態が起きたとして、またやり直せばいいという楽観的な思考で悩みは軽くなる。 例えそれが死であったとしても、我々にできることはそれを好転させる具体的な行動だけであり、悩む事ではない。

瞑想

瞑想は目に見えない漠然としたものではなく、脳を構造レベルで変えることが実証されている。 瞑想により脳を鍛えることで精神的負荷にうまく対応できるようになる。 また瞑想は気分を落ち着かせ、新しいことを学びやすくなり、人間関係を改善する。 継続して行うことでより効果は高まるが、たった一回でも多くの健康上の利益がある。

ヨガ

ヨガは瞑想と並んで脳の機能を高める行動であると共に、心身をリラックスさせる。 ヨガをすることは脳を鍛えるだけではなく、精神的負荷を低減し、全身の炎症を抑えることが証明されている。 また有酸素運動よりも効果が高いとする研究もある。

それでも眠れない夜はどうするか

どうしても眠れない。そんな日もある。知っておきたいことは、たとえ眠れなくても、目を閉じて横になり、ゆっくりするだけで身体はしっかりと休息している、という事実だ。実は暗い部屋の中で横になっているだけで、睡眠の3分の2の効果があると言われている。

あまり長いこと眠れない時には、一旦起き上がって読書などをすると気分が落ちついて眠気が訪れることがある。 仮にその日全く眠れなかったとしても心配することはない。睡眠圧は上昇を続けるため、どうしようもなく眠くなる時は必ずくる。 ギネス記録によれば、11日間眠らずに過ごした人もいるが、これは実験のために無理やり起こしていたものだ。 また世の中には眠れない夜に活動することで大きな成功を収めた人もいる。

眠りをハックする

これまで述べてきたのは一般的な方法だが、もっと前衛的なやり方で睡眠を操ることができる。

睡眠導入マット

ここでいう睡眠導入マットとは、棘のついたマットのことであり、睡眠の質を高めるとされる。一体なぜ、棘のついたマットが睡眠の役にたつのか。眠ろうとする時、人はあれこれ心配してしまう。そこで身体を刺激するマットに横たわると、痛くて意識がそこに集中する。しばらくそこにとどまると神経系が沈静化し副交感神経が優位になる、という流れだ。

全身冷却(クライオサウナ)

全身冷却は、特別な装置に裸で入って全身を−130°程の冷気に1~3分ほど晒す方法だ。これにより疲労回復、炎症抑制、気分向上などの効果と共に、睡眠が深くなることが期待できる。仕組みはこうだ、まず全身を一気に冷却すると血管が収縮する。装置の外に出ると今度は血管は元に戻ろうと一気に膨張する。これにより血の巡りが圧倒的によくなって全身に栄養が届けられることで、前述の効果がもたらされる。日本だと、全身冷却ができる場所が限られ値段も高いが、効果が優れているためこれからもっと一般的になっていくことを確信している。

経頭蓋磁気刺激

高圧酸素室

オレキシン受容体拮抗薬

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参考文献

  • Matthew Walker (2018) Why We Sleep
  • 西野精治 (2017) “スタンフォード式 最高の睡眠”
  • Dave Asprey (2017) “Head Strong”
  • 櫻井武 (2017) “睡眠の科学・改訂新版”
  • 堀江昭佳(2016) “血流がすべて解決する”
  • 櫻井 武 (2010) “睡眠の科学―なぜ眠るのかなぜ目覚めるのか”
  • 堀 忠雄 (2000) “快適睡眠のすすめ”
  • Dale Carnegie (1948) “How to stop worrying & start living”